08
Savon de Rin

化粧品づくりは覚悟がいる。
でも未来は明るい、希望はある。
私は挑戦する人と走り続けたい。

久原 抄織さん

石鹸は人をしあわせにする。
娘の笑顔がそう教えてくれました。

私が石鹸づくりを始めて、15年が経とうとしています。始まりは、当時住んでいた社宅の小さなキッチン。アトピーだった幼い娘の肌荒れを何とかしたくて、自分でもできることはないかと図書館に通い、小幡有樹子さんの石鹸づくりの本と出合ったのがきっかけです。
早速、本を見ながら、個人でつくっても問題のない範囲で挑戦。その1カ月後、いい香りの石鹸ができました。自分で使ってみると、とても気持ちがいい。肌が弱くてお風呂が苦手だった娘も、くんくんと石鹸の匂いをかいで、「いい匂いだね、気持ちがいいね~」とうれしそうに言うのです。一生忘れられない、それはもうとてもしあわせなバスタイムでした。

石鹸は人をしあわせにしてくれる。そう思った私は勉強を重ねて石鹸をつくり続け、ママ友たちにもプレゼント。みんなとても喜んでくれて、「また使いたい」「友達にプレゼントしたい」というリクエストも続々と。どんどん口コミが広がり、娘の名前を入れた『Savon de Rin』というブランド名をつけた頃には、ひと月にかなりまとまった個数のオーダーをいただくようになっていました。

奥が深い石鹸づくりの世界。
私自身も軽やかに、前向きに。

『Savon de Rin』の石鹸は、「コールドプロセス製法」という方法でつくります。これは油脂と苛性ソーダの反応によって発生する熱を利用する製法で、石鹸づくりの起源ともいわれているんですよ。できるだけ素材の特性を壊さないよう最小限の熱でゆっくりと反応を進め、香りづけをして型に流し込み、その後約1カ月かけてじっくりと乾燥・熟成させます。ほんのわずかな配合の違いや気温の差、熱の加え方で、仕上がりは大きく変わります。どの油脂や精油をどう組み合わせたら、思い描いた石鹸ができるのか──奥深い世界だからこそおもしろいのです、ずっと。

そういえば、自分で石鹸をつくり始めて、思い出したことがあります。それは、看護師だった頃に感じていた手当ての大切さ。健康とか心地よさのために、この手でできることがたくさんあるんだという実感です。肌に対する興味の持ち方も軽やかに、前向きになりました。昔は「肌が乾燥してきた、いやだな」で終わっていたけど、今は「乾燥してきたから保湿を意識してお手入れしてみよう」っていう感じ。そうやっていろいろ試しながら肌をいたわる人のお家に、うちの商品を仲間入りさせてもらえたらうれしいですね。

普段工房内で行っている制作工程を、石鹸づくり教室でも使用しているスペースで再現いたただきました。

生産者さんの想いも物語も
ぜんぶ石鹸に乗せて届けたい。

石鹸づくりをきっかけに、佐賀をはじめ九州の生産者さんとのつながりも広がっています。東鶴酒造さんの酒粕、阪東農園さんの米ぬか、松尾製茶さんの在来茶……各地の素材を活かした商品も増えました。佐賀県に限らず、生産者さんたちは今いろんな課題を抱えていらっしゃいます。加工の際に出た殻や葉の処分に困っていたり、後継者がいないため長年手をかけてきた田畑を手放さなくてはならなかったり。そうした辛さを少しでも和らげられる希望のようなものが、石鹸にはあるのかもしれません。

生産者さんと話をしていると、つくづくこう思います。「どの生産者さんも自分を律し、消費者の健康や安全、安心という想いを背負って立っている」と。私もその想いをきちんと受け取り、責任をもって納得できる仕事をしたい。素材の魅力はもちろん、生産者さんたちの想いや知らなければ消えていたようなストーリーもぜんぶ『Savon de Rin』の石鹸にのせて、たくさんの方の手と心にしっかりとお届けしていきます。

今回の取材で県の変化を実感。
ものづくりの輪が広がり始めた

私が化粧品製造業、化粧品製造販売業の許可を取得したのは2011年のこと。当時の許可を担当していた県の薬務課の担当者の対応は正直ひどいものでした。人の健康やいのちに関わる仕事ですから、厳しいのは当然でしょう。しかし、「どうせ個人事業主にできるわけがない」という決めつけた態度に、私は何度も打ちひしがれ、悔し涙を流しました。そういった中で私は逆に絶対に業の許可を取ってやると強く心に決め、県の補助金や助成金には一切頼らず、自費で行政書士の先生に勉強会を依頼して、1年かけて薬機法や書類作成のスキルを学び、ようやく業の許可が取れたのです。

当時同じような経験をして業の許可を取るのをあきらめた人も大勢います。これでは挑戦する人が離れていくばかりだと感じました。
しかし今回、県の方々のプロジェクトに懸ける熱意にふれ、時代の変化を感じました。コスメを軸に、いろいろな立場や職種の人が関わり、コラボをしながら循環する社会をめざす。そんなものづくりの輪が、この佐賀県にもようやく根を張り始めたんですね。

化粧品商材をつくる仕事が生半可な気持ちではできないことは、私が誰より知っています。でも、覚悟を持ってチャレンジする人がいれば、私は一緒に走りたい。いい原料も、ものづくりに熱心な人も、ここにはたくさんいる。未来は明るいし、希望はあります!
アイデアを出し合えば、きっと楽しいものや出来事が生まれる。ものづくりって、そこが面白いんですものね。

Savon de Rin

久原 抄織さん

長崎県出身。看護師として医療に従事し、夫の転勤を機に佐賀へ移住。娘の肌を思いつくり始めた石鹸の評判が口コミで広がり、2009年『Savon de Rin』を立ち上げる。2011年、佐賀県の個人事業主として初めて化粧品製造業、化粧品製造販売業を取得。現在は佐賀市大和町の工房で石鹸づくりを行う他、教室も開く。なお、業の許可を取るために開いた勉強会の様子は、指導に当たった行政書士の柴田淑子氏のブログで連載され、これをまとめた内容が書籍『自分でできる「化粧品製造販売業」許可申請』(柴田淑子著/薬事日報社)となっている。

公式HP

その他のインタビュー

01
株式会社バーズ・プランニング

地元の素材を活かして
全国へ唐津や加唐島の魅力、
ものづくりの面白さを伝えたい。

松尾 聡子さん
02
株式会社クレコス

当たり前のことを地道に、
サスティナブルな取り組みを
続けていくことが大事だと思う。

暮部 達夫さん
03
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白いきくらげと出会い、
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ずっと続いています。

副島 幸輔さん
副島 耕一さん
04
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テーマに、地元・唐津の
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05
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川本 雅也さん
06
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佐賀への移住は
「おもしろい」選択。
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徳留 嘉寛さん
07
浜崎クラスター(現 唐津コスメパーク)3社対談

誰もが元気で輝いている。
日本のコスメティックバレーを
私たちの佐賀に創ろう。

山﨑 信二さん
馬渡 雅敏さん
西内 賢文さん
08
Savon de Rin

化粧品づくりは覚悟がいる。
でも未来は明るい、希望はある。
私は挑戦する人と走り続けたい。

久原 抄織さん