07
浜崎クラスター(現 唐津コスメパーク)3社対談

誰もが元気で輝いている。
日本のコスメティックバレーを
私たちの佐賀に創ろう。

株式会社ブルーム 代表取締役
山﨑 信二さん

松浦通運株式会社 代表取締役社長
馬渡 雅敏さん

株式会社トレミー 九州唐津工場 工場長
西内 賢文さん

コスメ構想を牽引する
「浜崎クラスター」が始動するまで

佐賀県をコスメ産業の集積地にするという、今回のJCCコスメティック構想を語る上で欠かせない存在が、「浜崎クラスター」です。まずは「浜崎クラスター」の成り立ちについて教えていただけますか。

山﨑さん:JCCの代表理事としてコスメティック構想を立ち上げる前、私は「日本の化粧品をこのまま放置していたら、海外メーカーとの競争に勝てなくなりますよ」と警鐘を鳴らしていました。そして、それを防ぐためには、この地域に海外向けの産業クラスターを生み出せばいいのではないかと思ったのです。そこで、2007年に私たち株式会社ブルーム(以下、ブルーム)の新社屋を唐津市浜玉町浜崎に構えた際、同じ敷地内に松浦通運株式会社(以下、松浦通運)さんに営業所を構えませんかとお声がけしました。当時は韓国コスメのブームがあり、ヨーロッパの有名ブランドの日本進出も増えつつあった時期です。2011年には株式会社トレミー(以下、トレミー)さんが浜崎に進出していらっしゃった。これにより本格的に浜崎クラスターが始動しました。

ブルームは25年ほど前から海外の化粧品メーカーの輸入に関するサポートをなさっており、高い信頼を得ていらっしゃいます。

山﨑さん:はい。日本には国内産業を守るために厳しい法律が定められていて、海外のメーカーにとってはこの法律が参入の障壁にもなるのです。特に、化粧品の輸入には財務省、経済産業省、厚生労働省が絡み、私たちでさえも難解な法律用語のオンパレード。そこで、ブルームでは商法的な問題と薬機法とを分離して考え、薬機法などの法律側の業務をうちで行い、全責任を負うというビジネスモデルを構築しました。そこで連携のお声がけをしたのが、松浦通運さんです。もう20年以上前の話になりますね。

馬渡さん:ブルームさんとは失敗と挑戦を繰り返しながら今に至ります。ブルームさんが製品を検査した後は、松浦通運が物流加工の部分を担当。輸入製品の業務に関しては輸入から通関、保管、配送まで、荷主様からお客様のもとに輸入製品が届くまでの工程をトータルでお引き受けしています。英語の説明書を日本語に翻訳したり、ラベルをはったり。1本1本検品するお約束のものは全部検品して最後にシュリンク(透明フィルムで外箱を加工)するところまで弊社のスタッフが担当。弊社には通関専門のスタッフもおりますので、通関がかかる製品は福岡空港や博多港で受け取り、一部を除いては唐津まで保税輸送します。昔は別々の会社が担当していた業務を一貫して行えるトータルシステムが、われわれの強みです。トレミーさんの進出で本格的な3PL(サードパーティーロジスティクス。荷物の調達から消費者に届くまでの一連の流れを、荷主の立場で企画・設計・運営を行う事業のこと)の体制が整いましたね。

西内さん:私どもトレミーは創業以来40年近く化粧品一筋に対応してきました。化粧品の製造はもちろん、企画から開発、パッケージの作成まで、化粧品に関しては一から十まですべて対応できる点が一番の強みです。こちらに進出する前からブルームさんともお付き合いがあり、ご縁があって唐津に工場を建設し、これからはインバウンドだけでなくアウトバウンドに向けたプロジェクトにも参加をさせていただくことになりました。山﨑社長がおっしゃっていた「企業同士が有機的に連携しながら、唐津を化粧品の集積地にする」という目標にも大いに共感しています。

ブルームとフランスのコスメティックバレーのお付き合いは10年ほど前から始まったのですね。

山﨑さん:はい。ヨーロッパで作った商品の3分の1はアジアに輸出されており、その拠点は香港とシンガポールにあるんですね。ヨーロッパからそこに荷物を届けるには約40日かかる。これでは膨大なエネルギーと費用がかかるし、SDGsの観点からも改善していかないといけません。そこで、以前からお付き合いがあった私たちに、北部九州で商品を作って発送できないかと打診があったのです。

西内さん:確かに、北部九州で商品を製造できれば、香港やシンガポールにも約4日で届けられる。エネルギーもコストも時間も、ヨーロッパからの輸送の約10分の1になりますからね。

山﨑さん:ええ。しかし、弊社だけではとてもそこまではできません。ただ、地元の企業と連携すれば将来的にはできるという確信はありました。ブルーム、松浦通運さん、トレミーさんとの3社のクラスターに始まり、原料メーカーや外箱のパッケージを作成する印刷会社も佐賀に進出なさって、ますますクラスターが熱くなってきています。予想以上に早いスピードでここまできました。

互いに近い距離だから
軽快にスピード感を持って仕事ができる。

「浜崎クラスター」のような企業同士の連携には、どのようなメリットがあるのでしょうか。

馬渡さん:たとえば、松浦通運で国際輸送の手配を行う場合、倉庫内の保税蔵置場(関税法上で定められた荷物の蔵置場)で通関をかけていくことができます。その間にサンプル検品が可能ですし、検品中にブルームさんも品質検査ができる。つまり、時間が大幅に短縮されますよね。われわれが連携することで、そういう一連の業務がワンストップでできることが大きい。これまでは輸入だけでしたが、今後トレミーさんと地元で製品を作って輸出する場合もすべてワンストップでできますから、ずいぶん効率的です。

山﨑さん:また、港や空港で通関する場合、誰がどのような製品を購入したのかが全て見えてしまうんです。お客様と秘密保持契約も結んでいる私たちとしては、そういう状況は非常に困る。けれども、松浦通運さんが保税蔵置場を設けてくださって以降は、情報が洩れる心配もありません。

馬渡さん:あと、物理的な距離が近いというのも大きなメリットです。ビジネスのDX化は重要ですし、われわれもかなり早くデジタルで情報共有をしてきました。ただ、物流を語る上では、アナログ的な横持の距離が近いかどうかが一番大事。アナログとデジタルの融合ですね。

西内さん:確かにそうですよね。デジタルの時代でも、物を動かすという工程がある限り、互いの距離が近い方が圧倒的に有利ですからね。ブルームさんには試験検査を日常的に相談でき、松浦通運さんにもすぐに配送の相談ができる。この距離の近さは時間短縮につながるリアルな魅力であり、デジタルだけじゃできない軽快さを感じています。

馬渡さん:それに今はヨーロッパの企業との取引には、カーボンニュートラル関連のデータ資料の提出が不可欠です。うちはこの3社のサプライチェーンの中でトレーサビリティが取れていますから、どこでどういう化石燃料をどれだけ使っているか、データではっきりわかる。エビデンスがありますから、われわれがこれだけリユースすれば何とかできますよ、とお客様にすぐ返事ができる。

西内さん:これも、アナログとデジタルが融合している浜崎クラスターの強みだと思います。われわれのような企業同士の連携は、日本ではまだあまり見られませんね。

山﨑さん:日本には自社内で何でもやろうとする企業が多いんですね。でも、特に欧米は個々の専門性を掘り下げていった方がいいので、能力のある企業同士が手を組んで互いの強みを活かそうとします。産業クラスターというのは、企業というパーツをきっちり組み上げてコントロールするのが難しいんですね。そのノウハウを私たちは「浜崎クラスター」で培いました。このクラスターの輪はこれからアメーバみたいに有機的に形を変えながら、どんどん広がっていくでしょう。時間やコスト面などの明確なメリットがあれば企業は連携しますから。

コスメ産業を通して
佐賀に可能性に満ちた雇用を生み出したい。

佐賀県のポテンシャルについて、また、コスメ構想への想いをお聞かせください。

山﨑さん:これからのマーケットの中心は東アジアです。そこにきちっとした製品を作って運ぶとしたら、拠点は日本の北部九州しかありません。それは、日本のモノづくりの姿勢、細かく厳しい品質管理に、世界が圧倒的な信頼を置いているからです。

馬渡さん:輸入製品の検査をしていると、日本では考えられないほど煩雑な状態で入ってくるものも多いですもんね。かつては大量に回収しなければならないほどでした。

山﨑さん:普通の検査は成分表を基準に行うのですが、うちは検査が先。成分表はあくまでも補足なんです。だからブルームは回収リスクが限りなく低いのです。私たちの仕事は粗悪品を日本に入れないためのゲート的な役割も担っています。医薬品レベルで化粧品を管理する日本の法律は海外から見るととんでもなく厳しくて、「だから日本の化粧品はクオリティが高いんだね」と皆さん納得なさいます。

馬渡さん:美と健康も安心安全が伴うかどうかが肝心ですからね。コスメ構想でも、佐賀県の一次品を使って化粧品づくりを進めましょうという話をしています。そうすると、佐賀県は安心安全な農作物を育てていて、その素材を使った商品も厳しい検査をクリアするほど安心安全で、世界中に安全に送り届ける体制もありますよ、とアピールできますね。そういう意味では佐賀県の伸びしろは大きいと思います。

西内さん:私どもがOEMやODMで製品づくりをお手伝いしている企業様からも、皆さん「素材からこだわった安心安全な製品です」と自信を持っておっしゃってもらえます。これから私たちが輸出を視野に入れてMade in Sagaの製品を手掛けるとなると、ますます安心安全が大事なキーワードになってくるでしょうね。

馬渡さん:佐賀県全体で安心安全をトータルで提供できるといいと思うんですよ。そして、世界各国の一流メーカーからも「佐賀県の取り組みなら喜んで」と協力してもらえるような、そのレベルまで県全体で学び、高め合っていかないといけません。

西内さん:同感です。美と健康は人生100年時代の大きなテーマですし、最近はコスメ業界以外の企業様からOEMやODMでオリジナルの化粧品を作りたいというご依頼も増えています。また、私どもは2021年に上場企業グループ(株式会社ナック)に入りましたので、以前にも増してお客様から信頼していただける製品を作り、皆さんの後押しをしてまいります。

山﨑さん:われわれのクラスターは、今は海外の日本向けサプライチェーンの一部ですが、レバーを切り替えたらこのまま輸出にも対応できる。今後は日本のいい化粧品を海外へ輸出する方向へ舵を切っていくつもりです。化粧品に関する施設がこれだけ揃っているのは、日本では唐津しかないでしょう。佐賀市の方までエリアを広げて考えると、ますますクラスターが広がる可能性は十分あります。海外の化粧品メーカーからすれば、ここが日本のコスメ事業の中心地。最終的には佐賀県に新しい産業が形成され、大きな雇用が生まれるようにしたい。

馬渡さん:うちの社員からは、「夢が持てます」という声が寄せられています。佐賀県にはこういうクラスターがあり、世界とつながる企業がたくさんある、と。そう誇りに思ってもらえることがとても嬉しい。ずっと働いていける企業があり、雇用が増え、住む人も増える。いくつになっても健康で、いきいきと美しい人も増える。そんな佐賀県にきっとなっていく──これはとても夢がある話ですよ。

山﨑さん:そうですね。フランスのコスメティックバレーは、現在の状態になるまでに30年かかったそうです。私たちのクラスターはまだまだここからです。本家の会長は、コスメティック構想の推進組織に「ジャパン・コスメティックセンター」という名前を付けてくださいましたが、これには「日本のコスメ産業の中心」という意味が込められています。この期待に応えて、いつかは「ジャパン・コスメティックバレー」と名乗れるように、佐賀県全体でレベルアップしていきましょう。

※ 2022年3月時点のインタビューです。 現在は、「浜崎クラスター」は「唐津コスメパーク」に変更されています。

 

株式会社ブルーム

代表取締役/山﨑 信二さん

株式会社ブルームは1991(平成3)年設立。当初より海外の化粧品メーカーの輸入代行を務め、これに加えて現在は品質管理に関するサービス、成分分析の受託も行う。2004年には厚生労働省指定の成分分析試験検査機関となる。海外では大使館直轄の展示会などで日本向け輸入品の法的な手続きに関する講演会を開き、サポート業務にも携わる。代表の山﨑氏は社団法人ジャパン・コスメティックセンターの代表理事も務める。

公式HP

松浦通運株式会社

代表取締役社長/馬渡 雅敏さん

松浦通運株式会社は1944(昭和19)年設立。佐賀県と福岡県を拠点に総合物流サービス事業を展開。港湾輸送、自動車輸送など24時間体制で対応し、グローバルサポート、サードパーティーロジスティクスなど、独自のシステムと立地条件を活かした陸・海・空の複合一貫輸送を導入し、物流コストの削減や環境負荷の抑制に貢献できる物流サービスを提案。2002年から株式会社ブルームと連携し、海外の化粧品メーカーの輸入代行業務に携わる。

公式HP

株式会社トレミー

九州唐津工場 工場長/西内 賢文さん

株式会社トレミーは1983(昭和58)年に設立。本社は東京都府中市。スキンケアの製造をメインに各種化粧品や医薬部外品の受託製造(OEM・ODM)を行う。2012年に佐賀県唐津市浜玉町浜崎に唐津工場を設立。唐津工場は国内外の企業や行政機関、大学関係者など多数の視察を受け入れており、専用の見学コースも設けられている。

公式HP

その他のインタビュー

01
株式会社バーズ・プランニング

地元の素材を活かして
全国へ唐津や加唐島の魅力、
ものづくりの面白さを伝えたい。

松尾 聡子さん
02
株式会社クレコス

当たり前のことを地道に、
サスティナブルな取り組みを
続けていくことが大事だと思う。

暮部 達夫さん
03
農業生産法人グレイスファーム株式会社

白いきくらげと出会い、
美と健康とワクワクの日々が
ずっと続いています。

副島 幸輔さん
副島 耕一さん
04
YOKO・JAPAN株式会社

「男性も美しく」を
テーマに、地元・唐津の
魅力も発信していきたい。

田中 洋子さん
05
東洋ビューティ株式会社 佐賀工場工場長

佐賀は海外ビジネスの重要拠点。
地域の方々とともに
佐賀工場を発展させます。

川本 雅也さん
06
国立大学法人 佐賀大学 教授

佐賀への移住は
「おもしろい」選択。
先が予測できないからこそ、
ワクワクドキドキする道なのです。

徳留 嘉寛さん
07
浜崎クラスター(現 唐津コスメパーク)3社対談

誰もが元気で輝いている。
日本のコスメティックバレーを
私たちの佐賀に創ろう。

山﨑 信二さん
馬渡 雅敏さん
西内 賢文さん
08
Savon de Rin

化粧品づくりは覚悟がいる。
でも未来は明るい、希望はある。
私は挑戦する人と走り続けたい。

久原 抄織さん